育てにくい子にはわけがある~感覚統合が教えてくれたもの~
著者:木村 順
近頃日差しも厳しい毎日に、時折スコールの様な雨が降るような変わった天気が日本を覆っていますね。そんな毎日でも子ども達は変わらず元気にこども教室エール・エール西教室に来所してくださり、我々指導員も楽しい日々を送らせていただいております。私事ではございますが、この施設に勤めて一年半になりますが、たった一年ほどで子どもとはこんなに成長するのだなと驚きと喜びを毎日感じさせていただき、感謝の毎日です。
今回ご紹介したい図書は「感覚統合」がテーマの一冊です。
感覚統合とは、著者の木村さん流に言い換えると「脳に流れ込んでくるさまざまな感覚情報を『交通整理する』脳のはたらき」だと書かれています。つまり、本書で「育てにくい子」とされる発達障害のある方の脳内は、その働きが未熟な為、脳内では様々な感覚が交通渋滞を起こしていると言っています。
「様々な感覚」のつまずきにより行動が乱れていたとして、指導者側に理解力がないと、「本人の努力不足」や「なまけ心」「しつけが不十分」という「誤解」が生じ、「叱る」「罰を与える」といった「誤った対処」がなされやすいと綴られていました。この部分は指導者側である私にとっては十分に児童各々の特性を理解しないと、とんでもない対処に繋がりかねないなと思い、戒めとなった部分でした。
また、本書では事例を様々な対処法を紹介しています。
―ケンカがたえないB君-
保育園の年長組になるB君は以前からかんしゃくを起こしやすかったり、人になつきにくかったりする子でした。学校のクラスでの行事の練習や本番になると、隣に並んでいるお友達と小競り合いを起こすのです。「B君が急にたたいた」「何もしていないのに突き飛ばした」などの意見が出ました。しかし、本人に確認しても「どうしていいかわからなかった」など曖昧な説明ばかりでした。
このB君に対応した作業療法士は「ゆっくりマッサージ」等を提案しました。入浴時にアカこすりなどの少し固めの素材で手足・からだをゆっくりこすります。その間、B君への課題は、「こすってもらっている部位に『注意や関心』を向ける」ことでした。最初は嫌がっていましたが、無理強いしない程度に根気強く続ける事によって、感覚(触覚)への『注意や関心』の向け方が安定し受け入れることが出来るように変化しました。B君には触覚が過剰に反応し、それを防衛するため誰かと肌が触れたり、触れそうになる場面で「触覚防衛反応」として突き飛ばしなどが起こりました。しかし、触覚の感覚が安定してきた為、小競り合いなども激減しました。またお母さんが実感されたことは、スキンシップなど親子の間では当たり前の行動にすら拒否反応を示していたB君は、その行動に嫌悪を感じづらくなり自分に「なついてくれる」ようになった、「より可愛いB君」に感じるようになったそうです。
一見すると対人関係のつくり方が苦手で、情緒も不安定、家庭環境に問題があるのではないか、母親のしつけ方や育て方がよくないのではないか、など表面上は思われることや指摘を受ける事も多かったそうです。しかし原因はそこではなく、感覚(触覚)への過剰な防衛反応であっただけで、時間をかけて「安全な感覚だ」という「感覚統合」のおかげで彼はより生きやすくなりました。
上記の事例からわかるように、「感覚統合」は人が生きていく中で当たり前のように行われている身体の仕組みであることが分かります。発達障害児はその当たり前の仕組みが未熟で、健常の人からすると当たり前の事過ぎて原因の把握が難しく、だからこそ様々な事例や話を聞くことで知識を増やし、子ども達に寄り添える支援をしていきたいと本書を読んで感じました。
本書の内容は少し専門的な部分も多い本ですが、わかりにくいところはかみ砕いて説明してくれているので、読みやすく感じました。育児に悩む保護者の方にも読んで頂きたいですが、特に専門職、教育現場の人たちに強くおすすめしたい一冊です。